自然本来の姿をもとめて
自然はしばしば、人のちっぽけさを知らしめる凄みを見せます。これはキャンプでご経験の方も多いはず。そしてその結果フィールドの虜となった方も。
そんなフィールドの虜となった一人が、今回の放流プロジェクト主催者である小平氏。関東エリアのトラウトフィールドを改善したいという想いから2009年に『Catch & Clean』を発足。フィールド清掃等の活動をつづけながら、仲間にとどまらず、行政や漁協などと連携しながら環境改善に取り組みます。
こうした官民巻き込む活動をした経験のある方なら、それがどれほどのエネルギーを必要とするか良くお解りいただけるのではないでしょうか。その諦めの悪さ。そのフィールドへの強い愛。それも本来の自然の魅力を知ってしまったからこそ。
そして2017年、志を同じくした面白いアングラーが別角度からアクションを起こすことで、「サクラマス回帰」に向けた動きが前進します。
フィールドを愛する者たちによる独自のアクション
その発端となったアクションを起こしたのが、丹沢の獣道を日夜さ迷うルアーマンにして燻製バー『くらげ亭』のマスター佐藤氏。アングラーのブログとは思えないほど力の抜けた文体で、まるでラノベのような軽やかさかつ愛らしくヌけたブログ『男は黙って獣道』が大人気な一方、内にたぎる「かっこいい魚に出会いたい」という熱い想いが滲んでいるお方。
佐藤氏の言う“かっこいい魚”とは自然本来のサイクル通りに成長した強敵。そんな強敵を求めて丹沢周辺で釣行を重ねる中で、佐藤氏は山中や河川の現状に怒りを感じ、人を避けるようにフィールドの深部へと向かっていました。それが小平氏ら志を同じくする人たちと出会い、独自のアクションを起こすことに。その名も『丹沢釣り人大反省会』。
自戒の念を感じさせまくるネーミングの同イベントは、その内実は楽しい飲み会。佐藤氏が経営する燻製バー『くらげ亭』でイベントを開催し、その収益から原価を差し引いた金額を「サクラマス回帰」へと向けた放流資金にしようというもの。
これに呼応した多くの“諦めの悪い者たち”が参加。さらには90年代から2000年代にサクラマス回帰活動を行っていたものの、その活動が途絶えていた『回帰マス連絡会』も合流し、多くの同士がイベントを通じて集うことに。「回帰マス連絡会の復活」を含め非常にムネアツな展開ながら、一貫して楽しみながら動いているスタイルがまた素敵なムーブメントなのです。
『森と川と海を繋ぐサクラマス復活プロジェクト』始動
『丹沢釣り人大反省会』の収益を中心とした放流資金を基に、「サクラマス回帰」に向けた放流プロジェクトが2018年よりついに始動。
丹沢山と相模湾を結ぶ相模川。その水源地のひとつである山梨県忍野の養魚場に専用池を確保し、ただのヤマメの稚魚ではなく、海に降りる確率の高い精鋭が選抜されました。
まずはサクラマスの発眼卵から孵化させ大切に育てられた幼魚が約2,500匹。そして“ビリ”と呼ばれるある時期まで発育が悪く、降海する可能性が高いと思われるヤマメが約1,000匹。
「発育が悪い」と聞くと頼りなく感じますが、魚の世界では「より逃げる」個体が他の個体よりも長くサバイブし、ついには警戒心MAXの巨大なモンスターへと成長する傾向があります。まさに「逃げるが勝ち」の世界。そのエリートである頼もしい“ビリ”を含む、計3,500匹ほどが相模川中流域より放流されることになりました。
そして放流へ
こうして行政でも漁協でもなく、フィールドを愛する者たち主導で、第一回となる放流プロジェクト『森と川と海を繋ぐサクラマス復活プロジェクト』が2018年11月に開催されました。
放流イベント当日、第一回にも関わらず90人を超える大盛況。「第一回だし、まあ50人も来れば上等じゃないの?」そう見込んでいた佐藤氏、軽い気持ちで豚汁担当を名乗り出た結果、想定の倍近い規模となり、終日巨大な寸胴で豚汁と奮闘するという佐藤氏らしいハプニングも。
はじめましての方も多い中、終始和気あいあいムードで、フィールドを愛する人々自らの手で3,500匹の希望が川へと放たれました。