日本にいても海外にいても、キャンプはどこの国へ行っても楽しむことができるのが魅力の1つですね。ですが、そのキャンプスタイルには、どのような違いがあるのでしょうか?
アメリカでキャンプをする時、ほぼ必ず聞かれる質問があります。
「料理の燃料は何ですか?」
ここでガスと答えると、少しガッカリした顔をされてしまう事があります。料理の時には焚き火で火を起こすのが、本当のキャンプの楽しみなのだと言わんばかりに…。
国や文化が違えば、焚き火スタイルにも違いがあることをご存知でしょうか?
今回は、筆者が実際にアメリカで3カ月間キャンプをしながらカヤックで川を下った道すがら、偶然出会ったキャンパー集団から体験した、アメリカ式の焚き火の流儀を紹介します。
アメリカ流の火の起こし方
焚き火の美学は、まず火起こし。アメリカ人の火起こしは、時として驚くほど豪快です。この日の天気は、丸一日降り続いた雨。地面も薪も湿りきったこんな時、アメリカ人はどうやって火を起こすのでしょうか。
そんな時、ジョン(画像右)がおもむろに取り出したのは大きなガスバーナー。ホームセンターの日曜大工コーナーでブロートーチという名称で販売されているもので、立派なガスカートリッジ付でした。なんと本来は家の配管修理に使われるものだそうです。
「ゴォーッ!!」っと、およそキャンプには似つかわしくない轟音を立てながら、乱雑に集めた湿った枝に向かって炎を噴射すると、10秒もしないでバチバチと火柱が上がりました。
「キャンプを楽しむために焚き火をするのだから、火起こしで時間を無駄にするのは勿体ない」。
実に合理的な火起こしでした。
一方で、着火剤の使用を最小限に抑えて火を起こすことに、情熱を燃やす人もいます。
エレン(上画像)の火起こしはまず、火床づくりからスタートします。地面にしゃがみこんで、両手を使って、浅いすり鉢状の穴を砂浜に掘ります。
次に拾った枝を、細いものから太いものにかけてグラデーションを描くように並べていきます。長さも綺麗に揃っているので、まるで青椒肉絲の具材のようだと思ってしまいました。
それから肝心の着火剤に使われるのは、紙。
紙の上にふんわりと、燃えやすい樹皮や細い枝を組んで、ライターで火をつけたら慎重に空気を送り込みます。
なかなか一発では決まらないこともあるけれど、思うようにいかないのも焚き火の楽しさなのかもしれません。
ちなみにアメリカでも、どこでも焚き火ができるというわけでは、もちろんありません。安全面と環境に配慮して、燃え残るタイプのゴミを燃やさず、しっかり鎮火させる。
そういう認識を全員が持って行っています。
元米軍兵士の教え「火を絶やさないコツ」
エレンが住んでいたテキサスの奥地では、亜熱帯の嵐で木がなぎ倒されたり、洪水で流されたものが家の裏に大量に溜まるそう。
これを毎年お父さん主導で一塊に集めて、燃やすのが恒例行事だそうです。
火柱は、家の屋根に並ぶくらい高くなるとのこと。アメリカの田舎の子供はそういう規格外の焚き火を見て、火の恐ろしさとそれを扱う楽しさを学ぶのだとか。
エレンの焚き火の流儀は、お父さんの影響を大きく受けているのだと語ってくれました。それもそのはず彼女のお父さんは、アメリカ空軍のエリートパイロット。
サバイバル技術のスペシャリストが行う焚き火の流儀は、親から子へと受け継がれていて、どうやらそこには厳格な掟もあるそうです。
その一つは、薪は自分で燃やした分だけ必ずまた拾ってくること。大量の薪も、火にくべると驚くほどあっという間に炭になります。
「自分で燃やした分だけ、必ず薪を拾ってこい!」
火を絶やさないために、お父さんが決めた絶対の家訓だそうです。
1日の始まりは、熾火(おきび)になった焚き火を復活させて、コーヒーを淹れること。夜寝る前に薪を用意しておけば、朝から薪を拾いに行かずに済むから、みんなでせっせと薪を集めました。
絶対に燃やしてはいけない2本の枝
アメリカ人の焚き火の楽しみは、ガンガン燃やすこと。自分の身長より長い倒木も、アリになった気分でせっせと運んで、燃やしてしまうのです。
だけど、焚き火で燃やしてはいけない枝がアメリカには2つあります。
一つは、ポーキースティック。これは火かき棒の代わりに使う枝のこと。丈夫で太さは握りやすく、かつ適度に湿り気のあるものが適しています。カラカラに乾いた軽いものだと、火をつついているうちに火かき棒が燃えてしまうからです。
もし、他人が見繕ったポーキースティックを誤って焚き火に燃やしてしまおうものなら、たとえ似通った枝を拾ってきてすり替えても、必ずバレて非難轟々浴びることになります。
火を守るポーキースティックは、ただの枝ではなく、神聖な枝なのです。
それからもう一つ、燃やしてはいけない枝の名前は、マロスティック。これは、マシュマロを焼くのに使うための枝のことです。
長くて細い枝を拾ってきて、先端をナイフで剥いて尖らせて、マシュマロを刺します。これを釣竿のよう手に持って、火にかざしてマシュマロを焼くのです。
炎が当たるちょうど良い角度で地面に刺して、勝手に焼けるのを待つのもオススメ。
アルミホイルと割り箸は超便利
キャンプで焚き火をするというと、道具がたくさん必要になるイメージがありませんか。でも、アメリカの川下りの旅人がやる焚き火は、かなり身軽です。
例えば身軽さを追求するあまり、皿やフォークも使わず、焼きたてのソーセージを手掴みで食べるくらい。
そんなミニマリストなアメリカ人キャンパーに、評判のアイテムがあります。それはズバリ、アルミホイル。これに包んで焚き火で焼けば、何でも美味しくなります。
やっぱり定番はトウモロコシや玉ねぎの包み焼きです。一番美味しかったのは、牛肉にニンニクを乗せて包んで焼いたステーキでした。
湿ったパンだって、ホイルに包んで焼けばパリパリに復活します。ソーセージも一緒に挟んで、ケチャップを垂らすと、たまらなく美味しいのです。
それから、アメリカ人の間で意外なほど評判が良かったキャンプ道具は、お箸。
筆者が何でも箸でつまんで手を汚さずに食べるのを見て、素晴らしい「チョップスティッキング」だとお褒めの言葉を頂きました。そんな英単語を聞いたのは初めてでした(笑)
お箸は、フォークやスプーンに比べて長さがあるので、調理の時に鍋やフライパンの上で使ってもあまり熱くなりません。それに、行儀が悪いけれど、ソーセージをフランクフルト風に突き刺して食べる事ができるのも評判でした。
「次からは私もお箸を持って行こう」そう言われると、日本の食文化を認められたような気がして、ちょっぴり嬉しい気持ちになります。
パンケーキはワイルドな料理?
アメリカの焚き火料理は、いつもかなり雑把。SNSで流行の可愛いパンケーキも、アメリカのキャンパーの手にかかるとワイルドな料理に大変身。
あまりに豪快な調理のため、1枚だけプレートの隅で火が当たらず、30分経っても焼けないパンケーキがありました。ようやくひっくり返す頃には表面がカピカピに乾いてしまって、美味しくありませんでした。
筆者たちはこれを負の遺産と称し、レガシー(遺産)パンケーキと呼ぶことにしました。食感がモソモソしていて美味しくないけれど、遺産だから均等に分けて食べるのだと、バカ笑い。
国も言葉も違うし、みんな初対面だけど、小さいことは気にしない。火を囲んで、楽しく語り合えるのことも焚き火の魅力の一つですね。