都市と自然の距離が近く、日常的にキャンプを楽しんでいる人が多い北欧の人々。
「自然享受権※」という慣習法があるため基本的にどこでもキャンプを楽しめますが、日本のように整備されたキャンプ場も多く、最近はグランピング施設も整備されています。
デンマークは他の北欧の国々に比べ、自然享受権に制限があるのでキャンプ場施設が他の国に比べて多い傾向にあり、さまざまなタイプのキャンプ場が整備されています。
今回は、北欧デンマークのキャンプ場施設のひとつである「シェルターキャンプ場」について紹介します。
※自然享受権:その土地の所有者に損害を与えない限り、私有地でも国有地でもキノコやベリー狩り、乗馬やキャンプ、カヌー・カヤックをしてもいい、みんなの自然をみんなで享受できる権利。デンマークのみ、一部制限あり。
北欧デンマークのシェルターキャンプ場
「シェルター」と呼ばれる、木製の屋根と3方向の壁に囲まれた半屋外の宿泊施設が設けられたキャンプ場施設は、北欧デンマークに1000ヶ所以上整備されており、手軽に自然を楽しめるキャンプスポットとして人気があります。
基本設備はシェルター、焚き火スペース、ベンチ・テーブルセットで、場所によってはトイレや水汲み場、共同サウナが設けられています。
このシェルター、屋根に薄く土を敷いていて、そこから草が生えていることが多く、屋根の上に小さな草原があるような外見になっています。理由を聞くと「空気の層を作って断熱するため」「自然を感じるため」だそうです。
北欧デンマークでは遊歩道やハイキングエリア、マウンテンバイクコースやキャンプ場などが都市のすぐ近くにもたくさんあり、各スポットにはベンチ・テーブルセットや焚き火スペース、ゴミ箱がしっかり整備されています。
幅広い層に親しまれるシェルターキャンプ場
気軽に自然を楽しめるように、でも自然に負荷をかけすぎないように、ある程度「人の手」を加えています。
手付かずの自然というわけではないですが、自然の中に「お邪魔させてもらえる」ように、景観を壊さず手を加えすぎないように整備しているところに、デンマーク人の敬意を感じます。
シェルターキャンプ場も、気軽にキャンプを楽しめるように人の手が加えられています。
テントを持ち運ばなくてもいいので、少ない装備で気軽にキャンプを楽しめるこのシェルターキャンプ場。
シェルターによって、有料(20-100dkk:約340-約1,700円)の場所や無料の場所、予約が必要な場所や予約が不要の場所があり、その形態も様々です。
シェルターキャンピングの前には、シェルターキャンプ場検索サイトや専用アプリ、Facebookのグループを利用して情報を集め、場所によって予約・支払いを済ませてから利用します。
このシェルターキャンプ場、自転車の旅やバイクツーリング、カヌートリップの途中で立ち寄って利用されたり、ファミリーやソロ、グループキャンプなど幅広い層に楽しまれています。
子供たちのキャンプデビューにも
色んなタイプのシェルターがあるので、情報を集めて自分好みの場所、形態のシェルターを探してお気に入りの場所を登録するのが、シェルターキャンピングを楽しむポイントです。
場所によってはペットと一緒に泊まることができるので、キャンプ計画前は要チェックです。子どもたちのキャンプデビューに選ばれることも多いです。
シェルターキャンピング
シェルターキャンプ場の近くには案内看板があるので、看板を探しながら目的のシェルターに向かいます。
この看板のシェルターキャンプ場は焚き火スペース、ベンチ・テーブルセットが併設されているものの、水場やトイレは無さそうです。
予約不要のキャンプ場を利用する場合は、事前にネットで確認するか、ハイキングエリアなどの途中にある看板を見て設備一覧をチェックしておくのがおすすめです。
キャンプ場に着いたら軽くシェルターを清掃し、設営開始。太陽の下で過ごすのが大好きな北欧の人々は、雨などが降らない限り、タープを張る機会が少ないそうです。
晴れた日なら設営はすぐに完了します。シェルター内でしばらく寛いだり、いそいそとコーヒーや紅茶を準備して思い思いにキャンプを楽しみます。
焚き火を囲んでのんびりするのも、コーヒーや紅茶を飲みながら景色を眺めてぼーっとするのも、友人たちとおしゃべりを楽しむのも、近くのハイキングエリアで散歩するのも自分次第。
こんなキャンプの過ごし方は、日本もデンマークもあまり変わらないように思います。
季節や場所によっては、近くの森でベリーやキノコを摘んでおやつにしたり、夕食の材料にすることも。ベリーやキノコの時期はキャンプに行く人が多いそうです。
夕飯は焚き火で豪快に
夕飯は焚き火で豪快にベーコンやソーセージパンケーキなどを焼いて頂きます。焚き火で料理することが多いですが、クッカーでパスタやスープを作る人ももちろんいます。
「キャンプで冒険をしている感じ」が好きな私は、もっぱら焚き火でソーセージやベーコン、黒パンを焼いてチーズを炙って食べます。
トイレの有無は事前にチェック!なくても、なんとかなる
シェルターキャンプ場によっては、トイレや水場が無いことがあるのでキャンプ前に要チェック。
トイレがある場合は水洗式やバイオ式などのトイレが備えられていて、トイレットペーパー持参を求められることが多いです。
水場が無い場合は、水タンクやペットボトルを持っていけば問題ありませんが、トイレが無い場合は少し覚悟が必要になります。
「トイレが無い場合は、ネイチャートイレを使うのよ」と、ウインクしながら教えてくれた友人。
ここで言う「ネイチャートイレ」とは、草むらや木陰など最低限のプライバシーを確保できる場所で、自然を感じつつ開放的に、時には野生動物とトイレスポットをシェアしながら使うことのできるトイレのこと(お察しください)。
公衆衛生の観点から、川や湖の近くなどの水場を避けるのがいいよと、初めてネイチャートイレに関するアドバイスをされた時は呆然としました。
特に女性は少し抵抗があるかと思いますが、徐々に慣れてきます。トイレが無いキャンプ場に行く場合は、そっと心の準備をしていきましょう。
特別な日をシェルターキャンプでお祝い
誕生日やイースター復活祭、クリスマスなどの特別な日にシェルターキャンプ場で自然を感じながらお祝いするのも、人気のシェルターキャンピングスタイルの一つです。
キャンプ好きの友人は、毎年クリスマスイブにシェルターキャンプ場で仲間たちと焚き火を眺めながら、クリスマスディナーを作って歌を歌ってお祝いしているそう。
こんなお祝いの日は、キャンドルやワインを持ち込んで、いつもより少し手の込んだキャンプ料理を作ってHygge※な時間を楽しみます。
※Hygge:ヒュッゲ。デンマーク語でお気に入りのモノや人に囲まれてリラックしした時間を過ごすこと。定義は少し曖昧
2020年は新型コロナウイルスの影響で旅行が制限されたため、デンマークでは近場のシェルターキャンプ場でキャンプを楽しむ人が増え、シェルターキャンプ場利用率が過去最高になったそうです(参考:Denmark.DK)。
日本でもコロナ渦でキャンプブームに拍車がかかったので、意外なところでデンマークと日本の共通点を見つけました。
みんなのキャンプ場をみんなで守る
日常的に楽しめるシェルターキャンプ場。清掃などの管理は利用者に委ねられていて、キャンプで出たゴミは持ち帰るか、近くのゴミ箱に捨てる、焚き火は完全に消火して大きい薪は取り除いておく、シェルター内の清掃をしっかりして帰ることが求められます。
シェルターキャンプ場を利用する際に、シェルターが雑草に侵食されそうになっていたり、焚き火スペース周りに雑草が生えていたら草むしりするのも利用者の役割。
「みんなの自然をみんなで守る」という自然享受権の考え方に基づいて、みんなのキャンプ場をみんなで管理しています。
時にはゴミが放置されていることもありますが、ゴミを見つけた場合はなるべく近くのゴミ箱に捨てるキャンパーが多く、自然享受権の考え方が根付いていると実感します。
「自然を楽しむということは、自然をリスペクトして負荷をかけないように、かつ自分の安全に配慮する責任があること」と、デンマークでアウトドアを教えてくれた友人が口癖のように言っていました。
日本のキャンプでも、みんなのキャンプ場をみんなで守って、快適に自然を楽しめるように心がけたいです。