改めて言いますが「僕は幽霊は信じていません」
その光は、火でした。
ゴウゴウと燃えているのではなく、細く長い火がゆらゆら燃えているのです。橙色に近い色です。しかも、地面ではなく、空中で揺れながら燃えているように見えました。あれは何だ? と聞かれたら「火の玉だ」としか答えようがないものが、そこにあったのです。
とっさに思ったのは(怖い)よりも(写真撮らなきゃ)です。テントに戻りスマホを持ってきます。電源が落ちています。寝る前に電源を落としたことを悔みながら、電源を押し起動させます。
すっかり暗闇に慣れてしまったのか、スマホの起動画面がやけにまぶしく感じます。画面と火の玉を交互に見ます。スマホ、火の玉、スマホ、火の玉。何回見ても、ずっとそこには火の玉があるのです。
近づいて来るわけでも、離れていくわけでもなく、同じ場所でゆらゆらと燃えています。もう少しでスマホが起動する。その時、火の玉が上に向かって真っ直ぐにスーッと移動したと思うと、フッと消えてしまいました。
ゆっくり徐々に消えたのではなく、ライターの火が消えるように、パッと消えたように見えました。しばらく、火の玉が消えたあたりを呆然と見ていました。そして、気が付くと、控えめな虫の声が聞こえるのです。
時々一斉に鳴き止む虫。これは珍しいことではないのかもしれません。ネットで調べると「危険を察知すると一斉に鳴き止むこともあるかもしれない」と書いています。でも、謎のキュポンという音。あれは僕は間違いなく聞いたし、火の玉も確かに見たのです。
実は火の玉を見たのはこれが初めてではありません。過去に1度だけ見たことがあります。小学生でした。親父が運転する車の助手席で、親父と見たのです。
どこかの高速道路を走行中、前方の上空に火の玉がゆらゆら燃えているのを見たのです。その時はスーッとまっすぐ落ちて消えました。親父から「今の、見たか?」と聞かれました。親父曰く、僕らの前を走っていた車もブレーキを踏んでいたそうで、その車の運転手も見たのだと思います。
改めて言いますが、僕は幽霊は信じていません。絶対にいないと思っています。
テントに戻り、スマホで「火の玉 正体」で検索します。何度も言いますが、世の中の恐怖は「正体不明」だから怖いのです。正体が分かれば恐怖は消えるはずです。
なるほど、火の玉は自然現象の一種の可能性があるのか。再現した人もいるのか。いや、でも僕が見た「スーッと移動してパッと消える」は、これじゃ説明できないな。
火の玉の正体を調べながらそのまま寝落ちしてしまいました。
翌朝、テントを撤収してキャンプ場の管理人さんに挨拶します。いつもの年配の方です。その時、火の玉の話をしてみました。
「ああ、鬼火でしょ。私も見たことありますよ。もう十年以上ここの管理人やってるけど、見たのは2~3回かな。あの辺でしょ?」
※鬼火とは火の玉の別名です。
そう言って管理人さんが指さしたのは僕が見た場所なのです。
同じ場所で何回も確認される火の玉(らしきもの)。きっとその場所には何かあるのかもしれません。気になります。でも、そこに実際に行って何があるのかを確かめる度胸は僕にはないのです。
それでも、あれ以降、何度かそのキャンプ場に予約を入れ、火の玉が見えた場所でキャンプをして同じ現象を見られることを期待している自分もおります。
番外編「ソロキャンプでの不思議な話」でした。